セッション6: 理論・数理
6-2 労働社会学-文化人類学-進化生物学:数理モデルによる社会科学横断的研究
大林真也(東京大学・日本学術振興会)
本報告では、数理モデルを用いた分析が社会学(社会科学)に対して持つ意義を論じる。具体的には、大林(2013)やKandori and Obayashi(2015)で扱った社会現象を題材として論じる。これらの先行研究では、コミュニティ・ユニオンと呼ばれる個人加盟型労働組合で行われている合同争議が、なぜ成功するのかという問いを扱った。合同争議とは、紛争当事者ではない組合員が、抗議行動などに参加して当事者を支援する争議を指す。
先行研究ではこうした組合員同士の支援を、「交換」という抽象的な次元でとらえ直した。それにより合同争議が文化人類学や進化生物学で扱われている一般交換と同じ形式を有した交換であることを特定した。しかしこれらの研究では、集団から成員が頻繁に離脱し、新たに集団に加入する人の情報(評判)が不明な場合には、交換は崩壊するとされていた。しかし、コミュニティ・ユニオンはこれらの条件を満たさない流動的な集団であるという特徴を持っていた。こうした既存の理論と社会現象の齟齬に対して、大林(2013)では、数理モデルによって分析することで、流動性のあり方・利得の得られるタイミング・互恵的戦略の組み合わせによって、交換が成立することを示した。
こうした研究が示しているのは、社会現象の抽象化、抽象化による社会科学の他の分野の知見の応用・社会構造の連関を解明するという一連の過程である。また数理モデルを用いることで、具体的な現象を説明しつつも、社会構造の連関や諸個人の行為に関する抽象的な分析が可能になり、労働社会学だけではなく、関連する社会科学の他の分野にも応用可能な理論の構成に寄与することが可能になったことが、上記の研究が社会科学に対しての持つ意義のひとつである。
大林真也、2013、「流動的集団における助け合いのメカニズム:経験的研究と数理的研究によるアプローチ」『社会学評論』64(2): 240-56.
Kandori, Michihiro and Obayashi Shinya. 2014. “Labor Union Members Play an OLG Repeated Game.” Proceedings of the National Academy of Science 111(supplement3): 10802-9.