セッション6: 理論・数理
6-1 関係社会学の数理社会学的基礎づけをめぐって
瀧川裕貴(東北大学)
近年、関係社会学、あるいは界の理論を提唱する社会学上の立場が注目を集めている.代表的な論者として挙げられるのは、H.White, J.L.Martinおよびその周辺である.関係社会学とは何かについて、明確な合意があるわけではないが、緩やかには、人々の相互行為や関係から出発して、社会現象の分析を試みる学的アプローチのことと定義できる.学史的には、おそらくG.Simmelにまでさかのぼることができるだろう.しかし、関係社会学が有望な学的アプローチとして注目を集めているのは、抽象的な理論題目や社会哲学的な目新しさというのではなく、それが、1) 形式的・数理的アプローチとの(潜在的な)親和性をもち、そしてそのことによって、2)経験的研究との接続可能性を強く志向しているからだ、というのが報告者の判断である.
そこで本報告では、かかる関係社会学の理論的基礎について検討し、その数理社会学的な定式化を進め、経験的研究との接続可能性について議論することにしたい.第一に、関係社会学の理論的構造を明らかにし、数理社会学的定式化がどこで必要となり、いかにして有益となり得るのかを論じる.ここで特に論点となるのは、関係社会学のコアに位置する、意味と社会形式の二重性の定式化、および社会空間ないし界の組織化のメカニズムの定式化、である.第二に、数理社会学的な定式化をふまえて、関係社会学の経験的研究への寄与の可能性について検討する.関係社会学はいかなる研究プログラムを提起するか、探求に用いられるデータはどのように得られるか、分析はいかにして行われるか、といった点を議論する.以上について、報告者による過去の研究事例(地位階層制の数理モデル等)をふまえて議論を展開していくことにしたい.