セッション1:書評セッション
シーラ・ジャサノフ『法廷に立つ科学―「法と科学」入門』(勁草書房、2015年)
司会:酒井泰斗(ルーマン・フォーラム)
法廷や審議会などにおける科学者・専門家の振舞いや科学的知識の提供・利用のされ方は科学社会学的にとって重要な主題であるが、法や行政に関する研究との連絡が課題となるところでもあるだろう。この書評セッションでは、このたび邦訳が刊行されたジャサノフ『法廷に立つ科学』をとりあげ、専門分野間の議論の場を提供することを目指したい。
本書は「法と科学」分野の古典であり、法と科学技術の各アクターによる実践の相互構築的なあり方・緊張感をもった補完的関係を分析した点に重要な特徴がある。中心的な話題はアメリカにおける司法過程であり、取り上げられる科学裁判の多くは行政訴訟であるため、その意義を理解するにも、まずは行政法的視点からの分析が不可欠である。特に環境法、医事法、情報法については現代の日本も多くの課題を共有しており、比較行政法的分析が有益なものとなるだろう。
また科学裁判で提起された問題が規制行政機関(regulatory agencies)においてどのように受け止められ法政策に結びついていくかを研究主題とする場合、 政治過程における各アクターの行動を行政学・政治学的に分析する視角と、 そこでいかなる法的論理が発展しているかを分析する行政法的視角は、同じく「行政」を対象としながらも非常に異なったものとなる。法の各ブランチ(立法・行政・司法)の相互作用にも焦点を当てた本書について検討する中で、科学/行政/行政法に関わる研究分野が政策過程分析に関して連携する可能性についても考えてみたい。
以上の理由から、本セッションでは、比較行政法と行政学という2つの分野から評者を招き、日米の比較も念頭に置きつつ、科学技術問題に関わる法政策形成過程の多角的な理解につなげることを目指したい。